卒業課題論文集 三価クロムめっきにおける添加物と基礎塩の濃度の変化による 外観への影響 (築山和暢)

1 はじめに

 三価クロムめっきに携わっている中で、めっきの外観不良にたびたび悩まされている。外観に影響を及ぼすと考えられる添加剤と基礎塩濃度については、購入先メーカー取扱説明書には標準値が示されているのみである。作業性を保ちながら外観不良を発生させないためには、各濃度の適正範囲を調べ、それらの管理幅濃度を設ける必要がある。そこで本研究では添加剤と基礎塩の濃度を変化させ、めっき外観への影響を調べた。

2・実験方法

2-1 評価方法

 試験片としてハルセル鉄板(100mm×67mm)を用いてハルセル試験を行った。図1に示す様に下部から20mm、高電流部から20mmの位置を中心に直径28mmの範囲を色差計(日本電色工業株式会社、SE7700)にて測定を行うとともに、目視にて全体の被覆力を評価する。

図1 色差計の評価範囲

2-2 浴組成

 表1を標準の浴組成とし、浴温、pH、金属塩は一定とし、表1の①添加剤、②基礎塩Aおよび③基礎塩Bをそれぞれ変化させて調べた。変化させたパラメーターをそれぞれ表2、表3及び表4に示す。

表1 購入先メーカー推奨の標準浴組成

浴温

50

pH

3.4

金属塩

5g/L

添加物

60g/L

基礎塩A

160g/L

基礎塩B

50g/L

表2 添加物濃度

添加物[ml/L]

0

10

20

30

40

50

60

70

80

100

表3 基礎塩A濃度

基礎塩A[g/L]

0

40

80

120

160

200

240

280

320

表4 基礎塩B濃度

基礎塩B[g/L]

0

20

30

40

50

60

70

80

90

120

2-3 めっき条件

 表1の①添加剤、②基礎塩Aおよび③基礎塩Bの内評価する1項目のみを変化させ、7A/d㎡(全電流3.5A)で2分間めっきを行った。

3・結果と考察

3-1 添加剤濃度を変化させた場合

 添加剤の濃度を変化させた場合の色差計の値を表5に示し、それをグラフ化して図2に示した。L値の許容範囲を10.5~14.0とし、各グラフ内にその範囲を示した。この値はa値とb値に関しては色を持つ皮膜ではないので特に変化はないものとし、管理範囲を定義しなかった。現在現場での管理範囲であり、更新直前と直後の値である。
図2に示すように色を持つ皮膜ではないためa値とb値は0付近で安定している。L値に関しては10ml/Lの部分は低くなっている物の0、20~50、60~100ml/Lの範囲で濃度が上がると段階的に黒みが増す傾向がみられる。一方、目視によると0ml/Lでは低電流密度領域まで反応せず、めっきがあまりつかず無光沢状態であり、10~80ml/Lでは明るさを除いては良好な外観となり、100ml/Lになると界面に薄いやけが見られるようになった。このことから60~80ml/Lが適切な濃度であるといえる。

表5 添加物濃度と色差値の関係

添加物

明るさ

赤・緑

黄・青

[ml/L]

L*

a*

b*

0

16.18

-0.39

-1.78

10

12.39

-0.21

0.1

20

14.81

-0.22

0.22

30

14.81

-0.08

0.33

40

14.54

-0.1

0.27

50

14.19

-0.18

0.49

60

10.87

0.01

0.41

70

10.71

-0.17

0.64

80

10.76

-0.08

0.37

100

10.64

-0.06

0.43

表6 現在の管理値

明るさ

赤・緑

黄・青

L*

a*

b*

浴更新前

14.09

-0.2

0.53

浴更新後

10.84

-0.15

0.28

図2 添加物濃度と色差値の関係

3-2 基礎塩A濃度を変化させた場合

 基礎塩Aの濃度を変化させた場合の色差計の値を表7に示し、その変化をグラフ化して図3に示す。また3-1と同様にL値の許容範囲をグラフ内に示す。
図3に示す様に添加剤と同様a値とb値は0付近で安定している。L値に関しては0~80g/Lでは必要な値が得られず正常に反応しておらず、0g/Lでは観測領域に反応界面の黒みが含まれているため少し低い値から高い値に変化しているものと思われる。また、280~320g/Lにおける値が高くなっているのは無めっきややけの領域が含まれたためではないかと思われる。目視においては0g/Lでは高電流密度領域しか反応しておらず、40~80g/Lに関しても低電流密度領域の反応が薄くなっているが、これは必要な電流値が得られていないためであると推測される。また、280~320g/Lでは高電流密度領域で無めっきとやけが見られた。この濃度では塩が完全に溶解せず高電流密度部分に付着したためと推測される。120~240g/Lが適切な濃度であるといえる。

表7 基礎塩A濃度と色差値の関係

基礎塩A

明るさ

赤・緑

黄・青

[g/L]

L*

a*

b*

 0

12.92

-0.35

-0.13

40

15.34

-0.26

0.27

80

15.76

-0.15

0.25

120

12.94

0.24

1.12

160

11.04

-0.07

-0.06

200

11.28

-0.24

0.11

240

11.34

-0.06

0.29

280

15.48

-0.29

0.53

320

15.14

-0.26

0.41

図3 基礎塩A濃度と色差値の関係

3-3 基礎塩B濃度を変化させた場合

 基礎塩Bの濃度を変化させた場合の色差計の値を表8に示し、その変化のグラフを図4に示す。また3-1と同様にL値の許容範囲をグラフ内に示す。
図4に示すように添加剤、基礎塩Aと同様にa値とb値は0付近で一定である。L値に関しては0~20g/Lではまだ正常に反応していないために少し高い値になっているが全体として濃度による変化はほとんど見られなかった。目視においては0g/Lではほぼ無めっき、無光沢状態で低電流密度領域では濃いやけが見られ、20g/Lでは低電流密度領域の反応が薄くなっている。また、70g/Lを超えてくると濃度が増すごとに低電流密度領域が反応しなくなっていく傾向が見られた。基礎塩Bは30~60g/Lの濃度が適切であるといえる。

表8 基礎塩B濃度と色差値の関係

基礎塩B

明るさ

赤・緑

黄・青

[g/L]

L*

a*

b*

0

19.3

-0.3

0.03

20

13.46

-0.21

0.01

30

11.63

-0.13

-0.02

40

11.35

-0.17

0.2

50

11.61

-0.16

0.03

60

11.51

-0.19

0.19

70

11.82

-0.15

0.35

80

12.88

-0.12

0.06

90

12.21

-0.2

0.12

120

12.79

-0.09

-0.39

図4 基礎塩濃度と色差値の関係

3-4 まとめ

 上記の結果より、浴温50℃、pH3.4、金属塩濃度5g/Lの場合において、添加物、基礎塩A、基礎塩Bの濃度は以下の範囲で管理することで外観不良を発生させることがないことが分かった。添加剤においては基準値が適正な管理幅の下限値であったことが改めて分かり、今後外観不良の発生率を低減できると期待できる。

表9 三価クロムめっき浴組成の管理幅

パラメーター 購入先メーカー推奨の基準値 管理幅
浴温 50℃ 50℃
金属塩 5g/L 5g/L
pH 3.4 3.4
添加物 60g/L 60~80g/L
基礎塩A 160g/L 120~240g/L
基礎塩B 50g/L 30~60g/L

4 おわりに

 以上の結果を踏まえると、以前に発生した不良は添加剤がほぼゼロの状態まで消費されていたためと推測される。また、外観への影響は添加剤のそれが一番大きく、基礎塩Bはほとんど外観には影響しないことがわかった。それぞれの成分は標準濃度よりも少し高濃度になるように維持すれば安定した外観を得られることがわかった。この結果を参考に今後の浴管理に役立てていきたい。

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