優れためっきの為の前処理 ③めっきの前処理工程

1 はじめに

めっき工程は非常に複雑で, 水洗工程を入れると通常10工程から30工程程度を経てめっきが行われます。その工程の組み合わせも素材やその加工法・保存状態により様々でありますが, 各工程を分類すると以下のようになります。 これら工程を組み合わせて, 素材別に最適な前処理工程を見つけ出すわけでありますが,素材の加工・熱処理・保存が適切でなければ,前処理段階で非常に苦労することになります。なお, 一般にめっき不良の50ないし90%は前処理が原因であると言われますが, 密着不良に関してはほぼ100%近い原因が素材自体あるいはその加工や前処理にある(ただし, Al材の場合は, 前処理条件とめっき液の活性度のバランスが密着に大いに影響する)と考えられ, めっきに近い工程ほど密着性に対する影響は大きくなります。

2 脱脂洗浄

脱脂洗浄工程は、その目的により予備洗浄、本洗浄、仕上げ洗浄に分類することもできますが、ここでは実際に用いる溶液の種類や条件により次のように分けられます。あらかじめ汚れのほとんどを取り除き、次工程へ極力汚れを持ち込まないようにするために行われる予備洗浄には、溶剤洗浄やエマルジョン洗浄が適するが、実際には主に環境上の問題からアルカリ浸せき脱脂で行われることが多いです。

脱脂洗浄工程で問題になり易いのは、次工程への脱脂液成分の持ち込みと脱脂液中の異種金属と素材金属との置換(浸せき脱脂中であっても置換し得るので、異なる素材を同一ラインで前処理する場合は特に注意が必要)です。主に、前者はめっき皮膜の外観不良、後者は密着不良の原因となります。また、珪酸塩を含む脱脂液を使用する場合は、水洗が不十分で素材上に珪酸塩が残ると白ムラ等の外観不良を起こし易いので注意が必要です。なお、脱脂洗浄工程は有機性の汚れを除去するもので、無機性の汚れは後述する酸処理で除去すると考えるべきです。

3 溶剤洗浄

ソルペントナフサ、ベンゼン、トリクロロエチレン、1,1,1一トリクロロエタン等の溶剤に浸せきあるいは蒸気暴露することにより、素材に付着した油脂やワックスを除去するもので、加温溶剤浸せき法、冷溶剤浸せき法,多重液相法、噴射法、蒸気法、拭き取り法に区別されます。油脂やワックスの除去効果は大きいが、可燃性、コスト、沸点の問題があります。塩化メチレンやトリクロロエチレンなどの塩素化炭化水素は毒性があるので換気や地下浸透に注意せねばなりません。また、塩素化炭化水素に水分が混入すると加水分解により塩酸ができ、金属を腐食する点も注意が必要です。

4 エマルジョン洗浄

溶媒中に異種液体の徴小滴を分散乳濁させたエマルジョン溶液に素材を浸せきし脱脂洗浄する方法あるいは素材上の油分を界面活性剤添加溶液に浸せきしエマルジョン化して除去する方法をいいます。大量の油脂を効果的に除去できる長所がありますが、廃水処理は困難です。

5 アルカリ脱脂

前述したアルカリのけん化(油脂や脂肪酸がアルカリと反応し石鹸ができる反応、例:RC00R’十NaOH→RC00Na十R’ OH)・乳化作用により脱脂洗浄する方法で、界面活性剤を添加することも多いです。動植物性の汚れは苛性アルカリのけん化作用により、鉱油系の汚れは珪酸アルカリで分散させて除去します。 浸せき法とスプレー法に分けられますが、一般的には50~90℃で加温された浸せき槽を用います。

6 電解脱脂

電解脱脂は、陰極電解脱脂、陽極電解脱脂およびPR電解脱脂に分類されます。

6.1.陰極電解脱脂

 通常非鉄金属にも適用可能で、陽極電解脱脂よりも洗浄効果が高い(陰極電解脱脂時に発生するH2ガスは、腸極電解脱脂時に発生する02ガスの2倍量あるため)が、脱脂液中に金属イオンが存在すると品物上に還元析出し密着不良を起こし易いので注意が必要となります。また、特に高炭素鋼に対しては、水素脆性(金属中に水素が吸収され脆化する現象)への配盧が必要となります。

6.2.陽極電解脱脂

素材がエッチングされアンカー効果も期待できるため密着力を向上させる反面、外観不良(光沢低下)を起こし易い点には注意が必要です。陽極電解脱脂は,主に鉄鋼表面のスマット除去や快削鋼中のSやPbの除去のために用いられるが、非鉄金属に対しては素材の溶解が大きいため用いられることは少ないです。また、錫やニッケルなどは表面が酸化しやすいので、陽極電解脱脂は用いられません。

6.3PR電解脱脂

陰極電解脱脂と陽極電解脱脂の利点を合わせ持たせようとした方法で、脱脂速度が速い。一般に、脱脂浴の汚染が進むにつれて陽極通電時間を長くしていく場合が多いです。水素脆性も生じにくいとされるが、脱脂液の老化は早くなります。

7 超音波洗浄

超音波のキャビテーション効果(超音波が溶媒中を伝わる時に発生する減圧状態の空洞ができる現象)により発生した泡が潰されることによる強力な攪拌を利用する洗浄法です。ただし、エマルジョン洗浄には適さず、また、キャピテーション損傷(素材表面での減圧状態の空洞の発生と崩壊が起こることにより、素材が損傷すること)に注意する必要があります。

8 酸処理

酸処理はその目的や方法により、酸洗い・酸電解・酸活性に分けられますが、素材の局所的侵食を防ぐためには、インヒビター(化学反応や電気化学反応の急激なあるいは局所的な進行を妨げる物質で、酸処理においては素材表面に吸着し腐食電流を抑制することにより、その侵食を防ぎつつ酸化膜を除去するために添加)が用いられます。酸処理に用いる酸の規定度(および温度・老化度)には常に注意を払うべきで、特に、めっき前の酸活性に用いる酸の規定度の低下は密着不良に直結しやすくなります。また、酸活性後の水洗(および空中移行)に時間をかけ過ぎると、低炭素鋼等では錆の発生、ステンレス鋼等では酸化膜の再生が問題となるので、なるべく短時間で効率良く行うのが望ましいです。

9 酸洗い(ピックリング)

厚い酸化膜(さび、スケール)を除去する目的で行う比較的強い酸処理で、数時間の処理を行うこともあります。スケールが除去されて素地が露出した部分へのオーバーピックリング(酸洗い過剩, 酸食) を防止するために、インヒビターが添加されることが多い。鉄鋼材料に対してオーバーピックリングが起こると、酸に溶解しにくいCやSiが黒い微粉未状のスマットとして残りま。スマット発生の問題は、特に高炭素鋼において起こり易いです。なお、スケールとは素材の加工工程(熱処理・切削)で発生する変色を伴う比較的厚い酸化膜のことで、スマットとは形成段階の違いによって区別されます。

薄い酸化膜を除去する1分程度以下の酸処理を酸浸せき(ディッピング)として、ピックリングとは区別する場合もあります。

10 酸電解

酸電解は、陰極酸電解、陽極酸電解およびPR酸電解に分類され、いずれも発生した水素あるいは酸素ガスの機械的作用を利用して強力に酸化膜を除去(脱スケール)しようとするものである。通常、酸電解の対象は鉄鋼材料であるが、その場合も素材の溶解には注意する必要があります。陰極電解すれば素材は溶解しにくいが、脱スケール効果も小さくなります。ミスト防止のために界面活性剤を添加する場合もあります。

11 酸活性

めっき直前の最終的な酸処理をいい、ごく薄い酸化膜を除去し活性な素地面を出す目的で行います。従って、酸活性後も酸化膜の再生を防ぐため迅速なめっき作業(水洗 ・空中移行)をする必要があります。通常Al合金以外の金属素材一めっき皮膜間の良好な密着を得るためには極めて重要な工程なので、酸活性浴の管理はおろそかにできません。

12 エッチング

素材表面を化学的・電気化学的に侵食する方法で、加工変質層を除去しめっきに適した表面にするためあるいは表面に凹凸を付けアンカー効果を付与するために行われます。特に、非金属素材に対して密着性を上げるためには重要な工程です。酸・アルカリによる化学的エッチング以外にも電解エッチングがあります。 ただし、別項に記した酸処理や電解処理でも多少のエッチングはされるので、それらとここで示すエッチングとの厳密な区別は難しくなります。

12.1.酸エッチング

鉄鋼素材の場合には、めっき前の加工により生じた素材表面の変質層を除去しひずみの無いめっきに適した結晶面にするために行われます。また、アルミニウム素材の場合には表面の不均一な自然酸化膜の除去のために脱脂作用も兼ねて行われます。

12.2.アルカリエッチング

アルミニウムや亜鉛などの両性金属をエッチングする場合に酸エッチングだけでなく、NaOH等を主成分とするアルカリ溶液も用いられます。

13 触媒活性処理

触媒性のない素材に無電解めっき反応を起こさせるために触媒核(主にPd、他にAu、Ag)を付ける工程を言う。金属あるいはセラミック上の蒸着膜等へめっきする場合は、アクチペーティングによることが多いです。

14 置換処理

アルミニウム合金上の前処理として、ジンケート処理(亜鉛置換)やスタネート処理(錫置換)がある。触媒活性化におけるPd析出を置換処理とは別に考えると、その他には無電解ニッケルめっきの前処理として行われる置換処理は、密着不良原因となるためにほとんどありません。

15 中和

酸やアルカリを次工程に持ち込まないように、炭酸水素ナトリウム溶液などに浸せきし中和する場合があります。かつては、Al材の前処理工程としてめっき前に中和工程を入れる例もあったが、最近ではあまり見かけません。

16 水洗、湯洗、乾燥工程

前工程の成分を次工程に持ち込まないようにするために水洗工程は重要です。また、水洗水の水質も問題となる場合があり、最近では電子部品や精密部品へのめっきにおいては、純水やイオン交換水が用いられることも多いです。酸活性後は素材表面が酸化(不働態化)する前にめっきしなければ密着不良を起こし易いので、難めっき金属にめっきする場合、めっき前の最終水洗を取えて弱酸性に保つこともあります。ただし、その際はめっき液への酸成分の持ち込みが不可避となります。また、めっき前の最終水洗に次亜リン酸ナトリウムやジメチルアミンボラン(DMAB)等の還元剤を加え、めっきの反応性を高める工夫がなされることもあります。

湯洗工程は、無電解ニッケルめっき液直前の予備加熱工程として行われる場合とめっき後の乾燥を行う前に行われる場合があります。前者に使用する場合はめっき前に素材が乾いてしまわないように、後者に使用される場合は乾燥ムラができないように注意する必要があります。

乾燥工程は、皮膜外観が悪くならないようになるべく清浄な雰囲気で迅速に行う必要があり、特に無電解ニッケルめっき皮膜は酸化性雰囲気に弱く変色しやすいので、特に硝酸性環境にならないように注意が必要です。乾燥工程は、密着性向上を兼ねて行われる場合もありますが、その場合の目安は、Fe 合金210±10℃、Cu合金190±10℃、All60±10℃、Al合金130±10℃で、1~1.5時問(JIS H 8645-1989)となります。

17 ストライクメッキ

素地の活性化が難しい金属に対しては、ストライクニッケルメッキを行うことが多いです。一般にウッド浴はワット浴(電気ニッケルめっきの一般的基本浴)と比べて付きまわり(密着性)が良いため、代表的ストライクニッケルめっきとして用いられるが、皮膜の内部応力が大きくめっき液の腐食性も強いことには注意が必要です。

 

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