銅めっきは古くから装飾クロムめっきの下地めっきとして広く用いられてきました。昭和30年ころまでは光沢シアン化銅めっき浴が盛んに研究され、鉄素材に硫酸銅めっき後仕上げ研磨(銅仕上げ)を行い→ニッケルめっき→クロムめっきという工程が普及しました。また、シアン化銅めっきが主流となった時代もあり、厚付けの研究もなされ、銅仕上げ後直接クロムめっきが行われました。 昭和40年代になると、光沢、レベリングのあるピロリン酸銅めっきや硫酸銅めっきの開発がなされました。
一方、ニッケルめっきの光沢剤も研究実用化され、仕上げ研磨の必要がない、
銅めっき→ニッケルめっき→クロムめっきの装飾めっき工程が工業的に広く普及しました。
装飾用めっきから工業用めっきに進歩した銅めっきはさまざまな特性を持ち、
電磁波シールド、浸炭防止、印刷ロール、はんだ付け性などとして広く普及しました。今日では、自動車外装部品などプラスチック製品の下地めっきとして用途が広がっております。
銅めっきの最も大きな特徴は電気伝導性が優れていることで、プリント基板のスルホールめっきなどに利用され、
銅めっきがなければ電子機器が動かないと申し上げます。
シアン化銅めっきはノーシアン浴(硫酸銅めっき、ピロリン酸銅めっき)にないすぐれた特徴を持っています。また、ストライク銅めっきとして、鉄素材上の硫酸銅めっきや亜鉛ダイカスト上のピロリン酸銅めっきなどの下地に利用されています。
シアン化第一銅 | 60~80ℊ/L |
遊離シアン化ナトリウム | 5~10ℊ/L |
温度 | 60~70℃ |
PH | 12~13 |
電流密度 | 2~4A/ⅾ㎡ |
シアン化銅めっき浴は錯塩浴で、シアン化第一銅(CuCN)とシアン化ナトリウム(NaCN)からつくられます。
白色粉末状のシアン化第一銅は水に難溶性であるが、可用性のシアン化ナトリウム溶液中にシアン化第一銅を攪拌しながら加えると、可用性錯塩をつくって次式のように溶解します。
CuCN+2NaCN→Na2Cu(CN)3
1モルのシアン化第一銅を溶解させるには最小限2モルのシアン化ナトリウムが必要です。
実際には、この当量関係より少し余分にシアン化ナトリウムを加え、この余分のシアン化ナトリウム遊離のシアン化ナトリウムとして分析測定されます。
この関係を重量比に直すには、次のような計算を行います。
2モルのNaCN/1モルのCuCN=98ℊ/89.57ℊ≒1.1
すなわち、シアン化第一銅のグラム数の約1.1倍が最小限必要なシアン化ナトリウムの量で、これ以上に加えられたシアン化ナトリウムが遊離のシアン化ナトリウムです。
ストライク銅めっきにより、密着性のよい初期析出被膜を与えれば、
硫酸銅めっきやピロリン酸銅めっきを厚付けすることが可能になります。めっき膜厚は薄く、0.2~2μm程度です。
シアン化第一銅 | 30g/L |
遊離シアン化ナトリウム | 10~15g/L |
温度 | 40~55℃ |
PH | 11~12.5 |
電流密度 | 4~6A/ⅾ㎡ |
鉄素材に硫酸銅めっきをする場合について考えてみましょう。
硫酸銅と硫酸が主成分で強酸性の硫酸めっき浴では、鉄素地が侵されます。この場合ストライク銅めっきは素材保護の目的を果たすことになります。また、硫酸銅めっきで銅イオンの鉄素地への置換析出を防止する働きをストライク銅めっきが果たします。
素材をめっき浴中に浸せきすると、めっき浴中の金属イオンが化学的に素材と結合せず析出し密着性を損ねたり、あるいは素材がめっき浴に侵されてしまうような場合に、事前にストライクめっきを行い、密着性、被覆力を向上させます。一般的には、金属濃度が低い特別な浴組成により、比較的高電流密度で数秒から数分間の短時間でめっきを行います。したがって、めっき厚さも薄くなります。
鉄や亜鉛ダイガストなど卑金属素地上に直接めっきできないので、下地にシアン化銅ストライクめっきが必要です。
硫酸銅めっき浴中に鉄を浸せきした場合、次のような置換反応が起こり、密着性の悪い銅置換膜を析出します。
Fe+Cu2+→Fe2++Cu
プリント基板のスルホールめっきでは、積層板にあけられた孔の中に厚い銅めっきが要求されます。光沢硫酸銅浴と比べ、硫酸銅に対する硫酸濃度の比率を高め、均一電着性を改善しています。硫酸銅めっきはプリント配線基板の表と裏を接合するためのスルホールめっきとして広く利用されています。また、多層配線基板をビルトアップ方式で製造するなかで、上下の層を接続するビアファイリング工程で電気導電性の特徴が生かされています。硫酸銅めっきは、電子工業分野で広く普及し、ハイスロー硫酸銅浴とも呼ばれています。
電気伝導率[μΩ・ⅽⅿ]
Ag | Cu | Au | Al | Ni | Fe | Pt | Sn | SUS |
1.59 | 1.68 | 2.44 | 2.82 | 6.99 | 10.0 | 10.1 | 10.9 | 72.0 |
光沢硫酸銅めっき | プリント基板用 硫酸銅めっき | |
硫酸銅 | 160~220g/L | 60~100g/L |
硫酸 | 40~80g/L | 150~225g/L |
光沢剤 | 適量 | 適量 |
塩素イオン | 20~80ⅿg/L | 20~80ⅿg/L |
温度 | 20~30℃ | 20~30℃ |
陰極電流密度 | 2~6A/ⅾ㎡ | 2~4A/ⅾ㎡ |
攪拌 | 空気攪拌 | 空気攪拌 |
陽極 | 含リン銅 | 含リン銅 |
ピロリン酸銅めっきは、水質汚濁防止法が施行された昭和46年以降、シアン化銅めっきに対し無害浴として研究され普及しました。
また、均一電着性にすぐれており、プリント基板へのスルホ―ルめっきとして広く普及しましたが、
硫酸銅めっきの進歩により、現在ではほとんどプリント基板用には使用されていません。
しかし、めっき被膜はすぐれた機械的性質を有しているので工業分野での用途は多いです。
ピロリン酸 | 70~100ℊ/L |
(金属銅) | (25~30)ℊ/L |
ピロリン酸カリウム | 250~350 ℊ/L |
(全P2O7) | (160~240 ℊ/L) |
アンモニア | 1~3㎖/L |
添加剤 | 適量 |
P比 | 6.4~7.0 |
PH | 8.5~9.0 |
陰極電流密度 | 2~6A/ⅾ㎡ |
温度 | 50~60℃ |
ピロリン酸銅めっきの基本成分はピロリン酸銅(Cu2P2O7)とピロリン酸カリウム(K4P2O7)からなる。しかし、遊離P2O7のみを分析することはできないので、ピロリン酸銅浴ではP比を用いて管理します。
ピロリン酸銅は水に溶けないので、過剰のピロリン酸カリウム溶液に少しずつ溶解し建浴します。
Cu2P2O7+3K4P2O7→2K6〔Cu(P2O7)2〕
P比は、めっき液中のCuとP2O7の重量比で定義される。
P比=全P2O7/Cu
浴中の主成分は〔Cu(P2O7)2〕で、この錯イオンと過剰のピロリン酸カリウムの関係は、ちょうどシアン化銅めっき浴における銅シアン錯イオン〔Cu(CN)3〕2-と遊離のシアンの関係に相当します。