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Forget-me-not
唐突に雷を落とされた様な感覚を味わったのは、東大阪市の布施駅から歩いて7分ほどの小さなスナックだった。
手足の短いママが、タバコに火をつけながら吸ってもいい?とくしゃくしゃにした顔で尋ねて来る。
常連さんが狭い店内に等間隔に並んで座っている中、中年のカップルがふいに現れた。
大分と酔っている様で、浜口京子にそっくりな女性の方は、彼氏の腕にしがみつきながらウイスキーを水割りで飲んでいた。そして、とんでもなく歌が下手くそだった。
彼氏は無口で、ニコニコしているだけだが、彼女は酒を飲んで大笑いし、下手くそな歌を披露し、ケラケラ笑う。
そして、最後の最後に彼氏に向かってあれが聞きたい、あれを歌ってとせがみ始めると、仕方ないなとデンモクを押し始めた。
私はそのカップルを見かけるのが初めてだったので、興味深く眺めていたのだが、周りの常連さんたちはその彼氏がデンモクを握った瞬間顔の高さまで手を持ち上げて、柏手を打ち始めた。
よ!待ってました!
きゃーー!と、彼女はトンデモナイくらい大声でそれを期待させる。
そして、上がり切ったハードルをその彼氏は見事に軽々と飛び越えた。
尾崎豊のForget-me-notを生まれて初めて聞いた時と同じほど、その男性の歌は魅力的で、もはや感動して一口もウイスキーが飲めなかった。
そして、彼女のほほにはツーっと涙が一筋流れ、それを誤魔化すようにまた彼氏の腕を抱きしめに行って、きゃーー!かっこいいー!とわめきたてる。
歌い終わると、手足の短いママが今度は何も言わずにタバコに火をつけていた。
これが私の忘れな草です。
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