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商売の原体験

大学一回生の秋、突然父からこんなことを提案された。

「ビデオ、売ってくれへんか?」

詳しく話を聞くと、会社の所有するテナントにあった無人ビデオレンタル店が倒産しオーナーが行方不明になってしまい、いわゆる夜逃げ状態であることから、店舗内に残されたレンタルビデオを一式差し押さえたが、下取り業者に見積を取らせたら1本10円にしかならないということで、私に白羽の矢が立ったのです。

当時所属していた柔道部では毎年学園祭で屋台を出店し、OBさんとOGさんがいらっしゃったときにおもてなしをし、多めに代金を頂いて部費を稼ぐということが恒例行事となっていました。

そこで私は、その屋台を間借りしてビデオを売ることにしました。

※もちろんアダルトビデオは学校的にNGであると判断し、売っていません。

段ボール8箱、計500本のVHSテープ

私が大学一回生の学園祭、つまり2005年11月はちょうどVHSテープとDVDが混在していた最後の方でした。なので、今思えばVHSテープ販売のラストチャンスでもあったのです。

私が学園祭でビデオ500本を売ると父に返答して直ぐに、大学宛てに段ボール8箱が郵送されました。学生課かから呼び出されて、段ボール8箱を何度も部室まで往復して運び出すと、部室はビデオテープで埋まってしまいました。

全てのビデオテープを箱から取り出し、ジャンルごとにどうやって捌いていくか考えることになりました。

学園祭初日

学園祭で出店できたのは4日間。

初日からいきなり人気作を出してしまってはダメなので、様子見をすることにしました。

1本500円

強気の価格設定で、通りがかる人全員に無料案内所のキャッチの兄ちゃんばりに声をかけまくりました。物珍しさからビデオが並んでいるものを見てくれるのですが、値段が高いと言ってなかなか買ってくれません。

そこで、1本500円に斜線を引いて、400円に変えて午後から販売を再開することにしました。

すると、打って変わって売れ始めたのです。

その事を元商売人の母方の祖母に会う機会があったので話してみたところこういわれました。

「ただ単純に400円という値札をつけたんじゃなくて、500円に斜線を引いたというのがあんたの才能。」

これには飛び上がるほど嬉しい気持ちになったことを覚えています。自分には何か特別な才能が有るんだと、お世辞でもいいので自信を持てた瞬間でありましたし、その後の人生も大きく左右してくれました。

学園祭2~3日

初日で声をかけて話すことが出来た人には、ラインナップがスペースの関係で全て見せられないが、毎日変わるので来て欲しいと伝えてあったので、友達を連れて徐々に沢山の人が来てくれるようになりました。

そして、500円→400円戦法の他に、独占禁止法に抵触しかねない抱き合わせ商法や、セット割引など、お得に感じる売り方を次々に考え実践していきました。

このことから、本当に500本あったビデオは、残り200本まで減らすことが出来ました。

残り一日です。

最終日 売り切るために

最終日、残り200本のうち殆ど真新しい作品や、人気のある名作は無く、とにかくレンタルビデオ屋のラインナップとしてしか残されていない、枯れ木も山の賑わい的なものしかありませんでした。

店舗としては知名度も上がり、常にお客さんが来てくれるようになりました。

周りの出店で働く学生たちからも、差し入れが貰えるまで親交を深めるまでになりました。

ここでどうするか・・・

私は賭けに出ました。

100円で何本でも持って行っていいよ

最終日、残り200本から100本へと減り、もう誰も欲しいものは無いという状況の中繰り出した私の在庫処分の奥義・・・・。

私の中で確信は無かったのですが、無料でいいから持って行ってくれと、100円で何本でも持って行っていいよでは訴求力が全く違うのです。

消費者心理として、無料で持って行っていいは、【ゴミの処分をさせられる】と思うのではないか、というのが私の答えでした。

結果、100円を私に渡して競うように私が所有権を手放したくて仕方がない【ゴミ】を持ち帰ってくれたのです。

まつりのあと

私は、最終的に30本ほどのVHSテープを手元に残し、現金で5万円以上を手に入れることに成功しました。1本100円以上で売れたのです。

涙が出るほど嬉しかったことを覚えています。

その5万円以上の当時大学生にとっての大金をどう使おうか考えていた時、私の事を強烈に睨みつける4人の存在に気付きました。

そうです。同じ柔道部に所属していた一回生の同期たちは、連日私がビデオを販売している横で出店を営業し、何かを焼き続けていたのです。

「この落とし前、どうつけてくれるんや?」

私は、5万円を握りしめて彼らにこう告げました。

「天王寺のMioで、ごちそうするわ・・・」

学園祭の打ち上げは、私のおごりで中華料理の食べ放題に行き、仕入れと売上がトントンで終わった柔道部の出店で営業していた彼らの心の傷をいやすには十分だったようで、みんなから「これで堪忍したるわ」と言ってもらえて事なきを得ました。

私が大学に入り、学園祭で差し押さえたビデオを売り捌くことで、商売の基礎を学んだというお話でした。

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