ブログ

ゴルフクラブとメッキ(社長ブログ)

 

 弊社では私の入社以前からゴルフクラブのメッキを行っています。現在は海外へ生産拠点が移りゴルフ関係の売上は僅かとなりましたが、せっかくの機会ですので、「ゴルフクラブとメッキ」というテーマでアイアンヘッドへのメッキを中心に少し書かせていただきます。
 アイアンの形状は1950年代にほぼ完成されており、現在のクラブと比べるとかなり小さいですがフェイスライン、ネック形状などほぼ同じです。鍛造アイアンにはS25Cなどの軟鉄がよく用いられ、熱間鍛造、ホーゼル穴加工、フェイス面取り・溝入れ、研磨、メッキ、仕上げ研磨、フェイスサンドブラストが一連の工程です。
 そのころ、スポルディング、ウイルソン、マグレガーがクラブメーカー御三家で、アーノルドパーマー、ジャックニクラウス、ゲーリープレーヤーのビッグスリーとともに黄金時代を築きました。鍛造アイアンに、銅・ニッケル・クロムメッキがほとんどで、クロムの膜厚が普通の装飾メッキと比べて少し厚いくらいでした。研磨はペーパーが基本ですが、何工程ものバレルを上手に組み合わせ、省力化を図っております。フェイス形状(輪郭)はこの時代に確立され、21世紀に入っても大きな進歩はありません。
 ゴルフを始めて最初に使ったクラブは家にあったパワービルトサイテーションでした。粗研磨後、たぶんジャイアントバレルと呼ばれる大型の振動バレルで独特の風合いを持たせ、やや鈍い光沢があるアイアンでした。ニッケル光沢剤が控えめで、柔軟性のある皮膜と思います。電解式膜厚計で測定すると、ニッケル10μm、クロム1μm程度だったのを覚えています。
 当時のパターは、古典的なL型、キャッシュインと呼ばれたT型、安定感のあるマレット型、バランスの良いピン型に大別でき、現在の大型ヘッドもよく見ればどれかのタイプに当てはまります。
私は、家にあった1950年代のウイルソンL型パターを、ゴルフを始めてから40年間浮気もせず、‘僕の宝物’として愛用しております。
 軟鉄パターにもアイアンと同等のメッキがされています。真ちゅうパターは素材そのままか、着色処理が一般的でした。水酸化ナトリウム、過硫酸カリウム、水酸化第二鉄を混合した溶液でこげ茶色に着色を行い、振動バレルで表面を頃合いまで削り落とし風合いを持たせる処理です。米国のピンアンサーなども同様の処理を行っていたと思います。
ヘッドに対する表面処理には耐食性、耐摩耗性、装飾性が要求されます。国内大手メーカーが本格的にゴルフクラブの製造を始めたのは1970年前後からでした。消費税がスタートするまでは物品税の対象であり、シャフトに納税シールが張られていた記憶をお持ちの方もいらっしゃると思います。当時の弊社のメッキは銅・ニッケル・クロムの装飾メッキで、数ラウンドでソールのクロムメッキが剥げ落ち鉄素材が露出してしまう粗末なものでした。一部のメーカーからはニッケルなし、クロム20μm程度の硬質クロム仕様のものが出ていました。1972年に発売されたベンホーガンAPEXのメッキはその後の鍛造アイアンメッキ規格の基本となったと考えます。友人が使っていたので、破壊式膜厚計で計測してみると、ニッケル10μmクロム5μm、耐食性と耐摩耗性を満たし、クロム20μmより安価で合理的だと感心しました。
その後、弊社のメッキ仕様もダブルニッケル20μm、クロム4μmに落ち着きました。メッキ後仕上げ研磨を変えることにより、クロムミラー、クロムサテンの2種類のラインナップが完成しました。現在も、国内大手メーカーは打ち合わせたかのようにほとんどがこの規格です。
1990年代になり、鍛造キャビティバックが人気を集めました。そのころ弊社はまだ無電解ニッケルメッキを手がけていませんでしたが、いきなり難易度が高い無電解ニッケルボロンにトライしました。ダブルニッケル20μm、サテン研磨を加えてから無電解ニッケルボロン3μmの規格です。
ニッケルリンに比べて変色も少なく、硬度があり、摩擦係数が低いためか耐摩耗性に優れています。
しかし、浴の管理が大変で、不活性なニッケルメッキ上へのニッケルメッキですので活性化が難しく、色々試行錯誤を行い苦労しましたが、‘ボロン’と言う響きがゴルフヘッドにぴったりで、やわらかい色調の外観は大ヒットとなりました。
 1990年代になり、軟鉄鍛造キャビティバックが人気を集めました。そのころ弊社はまだ無電解ニッケルメッキを手がけていませんでしたが、いきなり難易度が高い無電解ニッケルボロンにトライし製品化しました。変色も少なく、硬度があり、摩擦係数が低いためか耐摩耗性に優れています。
しかし、浴の管理が大変で、試行錯誤を行い苦労しましたが、‘ボロン’と言う響きがゴルフヘッドにぴったりで、やわらかい色調の外観は大ヒットとなりました。
ゴルフ業界では‘ボロンメッキ’で通るのですが、学術的には‘無電解ニッケル-ホウ素合金メッキ’です。ある先生から「‘ボロン(ホウ素)メッキ’など存在しない。」と指摘された思い出もあります。
 その後、‘ハードブラックメッキ’‘ソフトブラックメッキ’‘ブラックボロンメッキ’など、弊社オリジナルの表面処理を行っております。
一方1970年代に出現したステンレス・ロストワックス鋳造製法のヘッドは金型が安く、鍛造に比べ地肌がきれいで研磨が楽。設計自由度が高いため、打ちやすい低重心の大型ヘッドがどんどん発売されました。ピン、リンクスなどが代表例です。その後素材革命も著しく、チタンフェイスも登場し、現在のXXIOなどがこの進化系アイアンです。
ステンレス、アルミ、マレージングなど難素材へのメッキ方法の研究が近年盛んに行われておりますが、特にチタン素材へのメッキは困難で、弊社を含め国内で数社しか行われておりません。チタンフェイスアイアンにクロムメッキをすることによりボール捕らえたときの感触がすばらしく、多くのトップアマからの評価をいただいております。
 これまで国内海外多くのプロのアイアンのメッキを手がけてきましたが、基本的にはメッキスペックは市販品と変わりはありません。しかし、トッププロの使用したアイアンのフェイスは名人の打痕を残しています。冬場のオフシーズンにメッキの張替えを依頼するプロも昔は結構いました。一般のプロはフェイスに打痕が富士山型に付いていますが、トムワトソンのアイアンを見たときはびっくりしました。なんと一円玉と同じ大きさの丸い打痕が入っていました。彼はパワーヒッターとばかり思っていましたが、精度の高い完璧なショットしていたことに感心しました。
ゴルフクラブはヘッド、シャフト、グリップ、フェラルで構成されている元々はシンプルな用具です。しかし、メーカーの開発競争は激しく、チタン、アルミ、カーボン、複合材料など素材の多様化、マシニング加工の導入、イオンプレーティング、チタンの加工技術の進歩など、たかがスポーツ用具とはいえ技術が集約されております。もうこれ以上進化の余地が無いのではと思いますが、毎年ハッとする新製品も発表されプレーヤーとしても楽しみです。

 

アルファメック株式会社
野村重之

DSC_0216

コメントを残す


お問合
わせ