鍍友会の記念誌に残された手記

大阪府鍍金工業組合の青年部会に「鍍友会」という組織がかつてありました。現在の青研会(青年鍍金研究会)の前身にあたるこの会が、創立15周年を記念して発行した冊子の中に、当時「野村メッキ」と称していた弊社の社員・西和明さんが寄稿した文章が収められています。

文章のタイトルは「ユーヂライトサイクルマスター」。これは米国ユーヂライト社製の全自動鍍金ラインの名称で、当時のめっき専業者には前例がほとんどない最新鋭の設備でした。会社がこの機械の導入を発表した時、西さんはどんな気持ちでいたのか。手記にはそのままの言葉で書き記されています。

手記全文(原文)

ユーヂライトサイクルマスターといへば、どんな機械だろう。会社から話を聞いた時は、自分でも本当だろうか、日本一の機械とらつてどんな機械が入つてくるのだろうかと思つた。

今まで何回となく、他の会社の機械を見て来たが、日本一というからには相当な機械だろう。自分達に使う事の出来る機械だろうか。会社の発表以来、六ヶ月くらいで入つた。実物をみて、ビツクリしてしまつた。機械は入つて来た、さてどうして動かすのだろう。これからが大変だ。自分にしつかりといい聞かした積りだが、液も出来たし、準備は大方出来た。仕事は忙がしい予備期間が全然無しだ。とにかく、やらなければ突貫作業だ。

最初は全然、機械も思うようになつてくれず、毎日、毎日、どれだけ気を使つたか分らない。

仕事も、今迄より勝手が違うし。このままやつて大丈夫だろうか。何度そんな事を考えた事か。でもやつているうちに失敗もあまりなく、自分としては良く出来た方ではないかと思う。そのうち見学者も少しずつ見えて来た。もうこうなつたら予備期間もない。自信をもつてする事だ。最初のうちは質問されてもなかなかいい答えも出ず、自分で困つていたが、今では十二分とはいかなくてもどうにか答える事が出来るではないか。

最初はあれだけ心配していた仕事でも今では何もしなくてもうまく行くではないか。今でこそ、こんな事がいえるが。今はもう機械を動かしているのだという自信で少しづつ心配も消えているのではないだろうか。

少し遅いかも知れないが、これは実際に自分が見て来た会社だ。入社した時は、一体自分の会社は大阪で何番目の会社だろうか。自分が会社で働いて少しでも、会社がよくなつていくだろうか、と思つた。

丁度会社に入つたのが、光沢メッキが出はじめた頃なので、自分達は運がよかつたのかも知れない。それからみるみるうちに、光沢メツキの技術は進んでいつた。また会社がこんなにまで伸びるとは思つていなかつた。二年、三年早やたつて行く。自分もどうにか他の会社の見学をさせて貰う事が出来るまでになつた。見学に行つた時なんか、自分の働いている会社は何時になつたら、あんな半自動でもよいから、使う様になるのだろうか。何年たつても自分で思う丈だろうか。

それから二年、三年とたち、突然にメッキ専業者で初めての全自動鍍金ユーヂライトサイクルマスターを買うと発表された時は、内心は本当だろうかと思つていた。六ヶ月余りで機械が入つて来た時は、やはり自分の会社にいてよかつた。本当なのだとうれしかつた。

最初はとにかく、日本一の機械を自分が動かす資格があるのだろうか、何回もそんな事を考えた。でも、今現に動かしているのだから、どうにか資格はあるにはあるのだろう。慣れて来て初めてわかつた事は、機械はたしかに日本一だが、やはり中味も機械に負けない様出来るだけ、少しでも他の会社より上をいかなくては、こんな機械は誰れでも動かされるものだ。やはり一番大事なのは中味なのだ。途中で話がそれて変な話になつて来たが、やはりこれは実際に機械を使つてみて、始めてわかつた事なのだ。

鍍友会創立15周年記念誌(1963年)より 野村メッキ工業 西 和明

この手記が教えてくれること

祖父や父から「全自動機を日本で最初か2番目に入れた」という話は幼い頃から聞いていました。でも実際に機械を任されたのが、こういう思いを胸に抱えた一人の社員だったということは、この文章を読んで初めて実感しました。

西さんの手記に一貫しているのは、「機械への敬意」と「自分の中味への問いかけ」です。日本一の設備が入ってきた喜びよりも先に、「自分がこれを動かす資格があるのだろうか」という問いが来る。そして最終的に辿り着く結論が「一番大事なのは中味なのだ」。設備への過信ではなく、人への信頼。それが野村メッキ(正式には野村鍍金工業)、今のアルファメックが長年大切にしてきた姿勢だと思います。

60年前の気づきと、今のアルファメック

当社はゴルフクラブ部品、自動車部品、医療機器部品、半導体関連部品、食品関連機械部品など、多岐にわたる分野のめっき加工を手がけています。設備は年々更新され、技術も進歩しました。しかし変わらないのは、機械を扱う人間の誠実さと技術への向き合い方です。

新しい設備が入るたびに、誰かがその機械の「最初の担当者」になります。不安を抱えながら、毎日試行錯誤する。そのプロセスが積み重なって、会社の技術力になっていく。西さんが昭和38年に体験したことは、今の現場でも繰り返されています。


ALFAMEK NOTE

「機械はたしかに日本一だが、やはり中味も機械に負けない様出来るだけ、少しでも他の会社より上をいかなくては、こんな機械は誰れでも動かされるものだ。やはり一番大事なのは中味なのだ」──この言葉は、アルファメックが60年以上変わらず持ち続けてきた信念そのものです。

用語について

ユーヂライトサイクルマスターとは、米国ユーヂライト社が開発した全自動鍍金ラインのことです。設定したプログラムに従い、部品のめっき槽への投入・引き上げ・搬送をすべて自動で行う装置で、昭和30年代当時、国内のめっき専業者への導入は非常に珍しいものでした。人が逐一槽を移動させていた手動・半自動ラインとは作業効率が大きく異なり、安定した品質管理にも貢献しました。

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