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男はつらいよ ~寅次郎インバウンド編~

昨日ふと平成生まれの方から、「寅さんってどんな話?」と聞かれました。そうか。昭和61年生まれの自分にとって、当たり前のように新作が上映され、過去の名作が再放送され、なんとなく始まって何となく観てしまう日本映画の代表的ポジションで、テーマソングは歌えるし、登場人物も大体誰が誰か把握してるし、寅さんそのものを一度も観たことが無い世代が大人になり始めているんだと知って、遂に自分にもジェネレーションギャップの波が押し寄せてきたのだなと感じざるを得ませんでした。

「あのね、寅さんっていうのは、中年のおじさんが旅行して、そこで知り合った女性に恋をして、一旦実家に帰って来て、その後失恋してまた別の旅行に出かけてしまう話だよ。おもしれえだろ?」

としか説明出来ませんでしたね。で、寅さんの魅力って何だったんだろうと考えた時に、昭和の大スター渥美清氏の数十年変わらない老け顔によって、まるでドラえもんの様にいつ見ても”ああ、寅さんだ。観よう。観よう。”と思わせてしまう安定感、古典落語を見せられているような、そんな生活に溶け込んだ魅力があったのではないでしょうか。

マドンナはその時代の超売れっ子女優が選ばれるので、今で言えば私としては土屋太鳳さんにマドンナを演じてもらいたい。

欧米嫌いの車寅次郎が、超円安で日本を訪れた外国人観光客に対して、「何がインバウンドでい!バッタものを売りつけてやれぃ!」と言いつつ、英語が分からないでうろたえているところを、帰国子女の土屋太鳳さん演じるマドンナが隣から割り込んで来てお客さんを上手に捌いてしまい、その姿に見惚れてしまう寅二郎。

「なーにがHe was talking to you about his recommended souvenirs.だよ!!バカにしやがってぃ!」とリスニングが完璧な寅二郎に対して、「わあ!おじさま英語が出来るんじゃないですか!どうして喋れないフリしちゃってたんですか?」と聞き返すマドンナ。「おれぁ、外国人がでえっきらいなんだよ!だから日本に来たなら日本語でしゃべりやがれっていっつも腹がたっちまうんだ。英語はちょっと海外をふらふらしてた時にたまたま道で倒れてたおれんこと助けてくれた夫婦に1か月間ぐらいお世話になったとき、おぼえちまったんだよ。」と無理な設定をねじ込む、どうしてもインバウンド編をやりたい強引な台本。

「私もね、祖父が先の戦争で亡くなっちゃって・・・。だからいつか一矢報いてやりたいと思って、アメリカ人のことを知ろうと思って勉強してるうちに、彼らだって悪い人たちだけじゃないっていうことが分かって、今は逆にもっとお互いを知り合って、祖父みたいな不幸な人が今後増えないように、仲良くなってほしいのよ。ねえ、おじさん!」と矢継ぎ早に寅二郎が感情移入したくなるような祖父エピソードを叩きこむ土屋太鳳さん演じるマドンナ。いや、どう考えても孫どころかひ孫やろあんた。

そうして実家に帰ってきた寅二郎を待ち受けている、おいちゃんや母の位牌。そしてよぼよぼになった倍賞千恵子さん。「お兄ちゃん。なんで法事ぐらい帰って来てくれなかったの?LINEも既読無視しないでよ!」少しだけ時代を感じさせる単語を散りばめる脚本。

「すまんねさくら。俺が悪かったよ。その日はどーしてもコロナの隔離期間があって、ホテルから出してもらえなかったんだよ。LINEだってさ、スワイプ入力ってえのか?あれをやろうとしても無理なんだよ。せっかく持たしてくれてるのに悪いな!さくら!」そう言いながら、首から下げたスマホをいじる寅二郎。

「どうしたのお兄ちゃん。首から下げてたお守りは?」

「あんなもん、とっくに捨てちまったよ。スマホのストラップと絡んじゃっていけねえ!」

ただ、家にいる人数が少なすぎて会話が弾まない。そんな時間の残酷さを消し去るように、唐突にテレビの音量が上げられる。

『コロナ禍後初となる、入国規制なしでの外国人観光客受け入れが始まりました!』

「ちっ。まーたインバウンドが始まっちまうよ。浅草も情緒が無くなっちまって嫌だね!」寅二郎は欧米嫌いを隠しもしない。

「何言ってんのよお兄ちゃん。外国人がお団子いっぱい買って行ってくださるんだから。いくら嫌いだって言っても、お金くださるお客さんにケチつけないでよね。」とにかくインバウンドを意識させたがる台本。

その後場面が変わり、満男と一緒に浅草の居酒屋で飲んでいる寅二郎。

「おめえもよぉ、もうずいぶんと大人になっちまったなぁ!」

「もう52歳だよ。初老だよ~。こないだも検査で引っかかっちゃって、飲み過ぎだなんて叱られちゃったよ。」

「おめえも随分と悪さしてんだな。俺と飲んでたら天国のカミさんに怒られちまわあな。・・・・おっといけねえ・・・。」

何となく虚空を見つめる二人・・・。そんな、時間を感じさせるやり取り。

「それよりおじさん。こないだ買ったビットコインが爆上がりでさあ。俺もついに億り人の仲間入りだよ!」

「なんだいそのビットコインってえのは?」とにかく無駄に現代を意識した台本に終始戸惑いを隠せない寅二郎。

そんなやり取りをしていると、居酒屋の中にいた客が全員入口から入って来る女性に釘付けになり、なんだなんだと二人も振り返ってみると、そこには旅先で英語のやり取りで助けてもらった土屋太鳳さん演じるマドンナが!!

「あ!おじさん!!こんなところで再会だなんて、びっくりしちゃう!」

「お、おう。まさかだなあ。」

「え?おじさん、こんな美人と知り合いだったの?」

「まあ、ちょっとな。」と鼻の下を擦る寅二郎。

「丁度、アメリカから旅行に来たホームステイ先の息子さんが浅草を観光したいっていうから、案内してたの。Hey Michael!」

「ちっなんだよ、俺たちゃここでお愛想な。」

「も~、おじさん、そんなこと言わないでってば。とりあえず一緒に飲みましょう!熱燗1合お願いしま~す!」

そこで1時間後に場面は転換。一気に仲良く酒を飲むMichaelと寅二郎。

「まったく、おじさんは直ぐ仲良くなっちゃうんだから凄いな~!」

「なーに言ってんだ。このマイケルさんってえのは、本当に日本のことを理解してくれてるんだ。ここで俺らが寛大な心でよ、日本の良さをさらに分かってもらわなくちゃ、男がすたるってもんよ!」

「どうせ、太鳳さんに気があるんだろ。」

そんな楽しいやり取りの次の日、お団子屋に偶然訪れる土屋太鳳さん。

「一度ならず二度までも!ここであったが百年目・・・・ん?」喜ぶ寅二郎だったが、横にはマイケルの姿が。

「こんにちはおじさん。びっくりしちゃった。まさかここおじさんのお店?マイケルが日本のお菓子が食べたいって言って、せっかくだから老舗のお団子を食べに来たんだけど・・・。」

「そうかい。気に入ってくれると嬉しいんだけどね。こんなインバウンドでしか客取れねえようなきったねえ団子屋だけどよ。食って気まずくなっても別れちゃダメだよ?ええ?」と強がる寅二郎。

「お兄さん、止めてくださいよ。本当にもう・・・。うちがここで何年団子屋やってると思ってるんですか。きっと気に入って頂けますよ。」

「OH DELICIOUS!」マイケルは口に入れる前に叫んでいる。

「もう、マイケルったら。ふふ。」何がおかしいか分からないが笑う土屋太鳳さん。

テーマソングが流れ、成田空港で二人を見送る寅二郎。

「ああ、俺ももう少し若けりゃな。なーんてな。さて、そろそろどっか旅に出るか。」

最後まで読んだあなたは、きっと疲れています。こんな無駄なものを読むのに時間を遣わせてしまい、本当に申し訳ございませんでした。

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