ブログ

走馬灯

20歳ごろのことですが、とある道場で柔道の寝技稽古中に絞め技で落とされた際に、走馬灯が一か月分だけ見えたことがあります。

走馬灯は、死を覚悟した瞬間など感情が昂ぶりを見せたその瞬間に記憶が呼び起こされてコマ送りの映像として流れる不思議な現象で、九死に一生を得るような事態に見舞われた人が生還して、走馬灯を見たと言うようなもので、自分には死ぬまで縁が無いものだとタカを括っていました。

実際に見た瞬間を振り返ると、想像していたものと少し違うなというのが印象でした。それと同時に、凄い体験をしたと少し興奮気味に周りに自慢してしまいました。

まず、背中を取られ首に手を回されると人は相当な抵抗をします。何故なら首を絞められる可能性が極端に高いからです。

守っては見たものの、あっという間に首周りに手刀をねじ込まれ反対の手で前襟を掴まれると、一気に身体に強烈な快感が走り、落ちました。

正確には落ちたというより、ふわっとした感覚の中に放り込まれて、失神の後に起こされた時、落ちていたことを知覚したといった感じです。

冒頭にも書いた通り、一か月分の走馬灯が見えたわけですが、それを見ていた時間は体感で数分かそれ以上は掛かりました。

本当に不思議なもので、一カ月間にあったこと全てを見るのではなく、何気なく覚えているような記憶が、自分が重要と思っているかどうかは関係なく止めどなく流れて来るような感じです。

突如として走馬灯に終わりが来ます。活法（蘇生術）で失神状態から回復させられるのですが、その瞬間に走馬灯の上映は終了しました。

自分が起こされた瞬間、「ここはどこ？私は誰？」状態で、いきなりひと月前の自分からタイムリープさせられたようなものなので、1分ぐらい頭が混乱していたようでした。

脳がバグる画像みたいなものをネットで見かけたりしますが、物理的に脳がバグるとはこのことだと改めて思います。

あの臨死体験は、正直気持ちよかったと今でも思い出せます。そのフワフワした瞬間に、自分でも意識して覚えていない記憶があふれ出て来るあの感覚は異様でした。

一か月分でも相当見ごたえがあったのに、あれが一生分ともなるとどれぐらいの体感になるのだろうかとか、見たからと言ってその後生き返るわけでもないので自分だけの閉じ込められた世界で起こることだから、確かめようもないのですけれども、気になります。

もしかしたら、今見ている現実の世界が、実は死ぬ間際の走馬灯であったりするかもとか、そんなことを考えながらキーボードを打ちこんでいました。