優れためっきの為の前処理 ④金属素材別前処理法

1 はじめに

以下に金属素材別に前処理の一般的ポイントを簡単に示すが、あくまで個々の品物の最適前処理条件を探す上での参考に止めていただきたいです。なぜなら、最近増加している難めっき素材においては、前処理後の表面状態(光沢)と密着性を両立させることは難しい場合が多々有り、また、あるラインの最適前処理工程が別のラインでも最適となるとは限らないからです。基本的に前処理工程は個々のラインで独自に工夫して決めるべきで、そのめっきライン管理者の最重要ノウハウと言えます。なお、基本的前処理として示す例には、水洗工程は省略しています。

2 低炭素鋼

0.35%未満の炭素を含有する低炭素鋼は最もめっきし易い素材です。特に、熱間加工表面で見られる酸化・油脂焼き付き・組織変態の問題がない冷間加工材の表面はめっきしやすいです。基本的前処理は【予備脱脂→浸せき脱脂→陰極電解脱脂→酸活性→めっき】です。同一の脱脂液を兼用してCu合金等の前処理も行う場合、炭素鋼上にCu等のFeよりも電位的に貴な金属置換膜を形成し密着を損ねることがあるので、脱脂液中の金属不純物濃度には注意が必要です。

3 高炭素鋼

0.35%以上の炭素を含有する高炭素鋼は、あまり強力に酸洗を行うと表面に残留したCを中心とするスマットができやすく、また水素脆性にも注意が必要です。従って、スケールやスマットが著しい場合は、酸処理よりも機械的処理(ホーニング、サンドブラスト等)を用いて除去した方が良いです。従って、酸洗条件(濃度・時間)はできるだけマイルドに抑えるべきであるが、あまり弱いと良好な密着を得られない場合もあり、その条件設定は簡単ではありません。

基本的前処理は低炭素鋼と同じく【予備脱脂→浸せき脱脂→陰極電解脱脂→酸活性→めっき】である。酸活性には塩酸を用いることが多いが、特にその濃度と温度の管理は非常に重要です。すなわち、酸活性が弱過ぎれば表面の活性不十分による密着不良を起こし易く、強過ぎればスマット形成による密着不良や光沢むらを起こしやすいからです。

4 鋳物

24.5%のCとかなり多くのSiを含有する鋳鉄は、水素脆化し易いので注意する必要があります。高炭素鋼と同様に考えて、基本的前処理は【予備脱脂→浸せき脱脂→陰極電解脱脂→酸活性→めっき] で良いのですが、酸活性を強く行うと特に鋳物表面にCリッチな層が残り、密着を損なうので注意が必要です。また、機械加工を行う場合にも、鋳造表面に近いほど組織が緻密でめっきに適すということを考慮し、内部組織が露出しないようにすべきです。さらに、鋳物には巣穴が多いので、前処理液の持ち込みによるめっき液の汚染やめっき後の乾燥時にめっき液が滲み出ることによるシミ発生(外観不良) が間題となることが多いです。

鋳物上の無電解ニッケルめっき皮膜の光沢むらは前処理不良に起因することが多いのですが、無電解ニッケルめっき液にイオウ系添加剤を含まないタイプに変更した方が良い場合もあります。これは、イオウ系添加剤のレベリング剤としての働きが、鋳物のように極端に荒れた素材に対しては凸部の付きまわりを良くすることにより逆効果になるためと推測されます。

5 快削鋼

快削鋼には、鋼の快削性を良くするためにS・Pb・To・So等を配合してあり、その配合成分の多くが触媒毒であるため、本来均一に密着良く無電解ニッケルめっきを析出させにくいです。また、酸浸せきではスマットを生じやすく、アルカリ浸せきでは孔食を生じ易いです。従って、高濃度・長時間の酸洗やアルカリ脱脂および高電流密度の電解脱脂は、一般には良くないとされるます。

ただし、逆説的ではあるが、陽極電解脱脂、高濃度・長時間の酸活性あるいはホウフッ酸浸せきを行うことにより、触媒毒成分を取り除けば比較的密着が良くなる場合もあります。しかし、その結果、表面が荒れるので注意を要します。前処理工程例は【予備脱脂→浸せき脱脂→酸洗→陽極電解脱脂→酸活性→めっき】である。

快削鋼に用いられる無電解ニッケルめっき液は、イオウ系添加剤を多く含むタイプは避けた方が良いかもしれません。なぜなら、快削鋼表面で触媒毒として作用する微量配合物(特に先述のS、So等) と無電解ニッケルめっき液中のイオウ系添加剤のトータル量が多くなりすぎて、イオウ系添加剤が反応促進剤やレベリング剤として働く限界量を超えてしまい、触媒毒となってめっきの反応性を低下させることもあり得るからです。

6 ステンレス鋼

ステンレス鋼の表面は非常に薄く強固な酸化膜により保護されており、このことが耐食性の良い理由です。しかも、酸処理などでこの酸化膜を除去しても空中や水中ですぐに再生するので、酸化膜の上にめっきすることになり易く、良好な密着性を得にくくなります。酸活性条件をかなり強力にし、酸活性後直ちにめっき工程に移行すれば、ある程度密着を良くすることも可能でありますが、一般的にはステンレス鋼上に直接無電解ニッケルめっきをして実用に耐え得るほど密着の良い皮膜を得ることが難しいため、ウッドストライクニッケルめっきを行うことが多いです。ステンレス鋼を分類すると以下の4種類になります。

  • オーステナイト系
    最もよく使用されており、18Cr-8二ッケル(SUS300系)が代表例である。最も耐食性の良いステンレス鋼であるが、活性化しにくく直接無電解ニッケルめっきすることはステンレス鋼の中で最も難しいです。
  • マルテンサイト系
    13Cr(SUS400系)が代表例です。SUS400系のステンレス鋼はほとんどニッケルを含まないので、比較的活性化しやすいものです。
  • フェライト系
    18Cr(SUS400系)が代表例です。析出硬化系:AlやCuを添加したステンレス鋼で、代表例はSUS600系です。

基本的工程例は【脱脂→脱スケール→陰極電解脱脂→酸活性→ウッド浴によるニッケルストライク→めっき】であるが、ニッケルストライクとめっき間で時間がかかるようであれば、めっき前に再度酸活性をした方が良い場合もある。

7 銅、黄銅、快削黄銅

銅合金は、一般に酸に強くアルカリに弱いので、脱脂液はアルカリ度の弱いものを用います。電解脱脂をする場合は、通常陰極電解脱脂が良いとされるが、陽極電解脱脂、あるいは陰極電解脱脂後に陽極電解脱脂をすることもある。ただし、陽極電解脱脂ではエッチングされ易いので注意する必要があります。

銅合金(主に黄銅)の錆取りと光沢付与のために行われる処理にキリンスがある。一般的なキリンス液は、硫酸・硝酸・塩酸の混酸であるが、過酸化水素酸・クロム酸・リン酸・氷酢酸を含むものもあります。酸活性には常温の10~20%の硫酸あるいは塩酸が適しますが、快削黄銅に対しては5~25% のホウフッ化水素酸を用いて鉛を溶解させた方が良い場合もあります。

触媒活性化にはPdを含有するアクチベーターを用います。ただし、触媒活性化を行わず、酸活性後にニッケルストライクメッキを行うこともあります。基本的工程例は【予備脱脂→浸せき脱脂→エッチング→酸活性→触媒活性化→メッキ]です。

8 ニッケル合金

パーマロイ(Fe20%-Ni80%)の場合の基本的工程例は【予備脱脂→浸せき脱脂→脱スマット→酸活性→めっき】であります。42アロイ(Ni42%、鋼半導体用リードフレーム素材)・コバール(Fe53%Ni29~28%-Col7~18%、ガラスと熱膨張係数がほぼ等しい)の場合の基本的工程例は【予備脱脂→脱スケール→浸せき脱脂→化学研磨→酸活性→めっき]です。

コバールとガラスからなるハーメチックシールドへめっきする場合には、浸せき脱脂と化学研磨の間にガラス研磨工程を入れます。ハーメチックシールドへのめっきにおいては、コバール部のみへのめっきが求められるため、発生しやすい問題は、コバール部へのめっき析出不良とガラス部へのめっきの広がりです。前者への対策は活性化の強化、後者への対策はガラス研磨の最適化が基本であるが、後者に対しては無電解ニッケルめっき液中の錯化剤あるいは安定剤を増量すると効果がある場合もあります。

9 アルミニウム合金

アルミニウム合金は非常に種類が多いが、主な合金組成により、1000系純Al、2000系Al-cu合金、3000系A1-Mn合金、5000系A1-Mg合金、6000系A1-Mg-Si合金、7000系Al-Zn-Mg合金のように分けられる。 一般にはSiを多く含む合金ほど密着良くめっきすることが難しくなります。

前処理法としては、置換めっき法、陽極酸化法、ストライクめっき法および直接めっき法があるが、無電解ニッケルめっきの前処理には、ジンケート処理と呼ばれる置換めっき法が一般的です。ジンケート処理とは、めっき前のアルミニウム合金の表面にZn-FeあるいはZn一ニッケル粒子を置換析出させる方法である良好な密着性を得るためには、置換析出した粗大な粒子を一度溶解し、より微小で緻密な置換粒子を再析出させる処理(ダブルジンゲート処理)を行います。その際、Znと共に置換析出するFeあるいはニッケルがめっき皮膜の密着性に大きく影響します。

基本的工程例は、展延材の場合【浸せき脱脂一エッチング→ジスマット→亜鉛置換→酸洗→亜鉛置換→めっき】で、ダイカスト材の場合【予備脱脂→脱脂→ジスマット→亜鉛置換→酸洗→亜鉛置換→めっき】 で、いずれもダブルジンゲート処理を行う方法です。良好な密着性を得るためには、特に2回目の亜鉛置換条件とめっき液の活性度の兼ね合いを最適化することが重要です。

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