卒業課題論文集 Ni-P/BN 複合めっきの析出挙動(野村邦博)

1 はじめに

無電解ニッケル-セラミックス複合めっきの一種であるNi-P/BN複合めっきは、無電解ニッケル-リンめっきに六方晶窒化ホウ素を共析させたもので、耐熱性、耐摩耗性、離型性に優れているとされている。めっきの析出状態や特性を理解するには、顧客ニーズに対応した技術提案において非常に重要となる。そこで、本研究ではNi-P/BNのめっき膜の成長過程を走査型電子顕微鏡(SEM)による表面観察ならびに分析することで、その析出挙動を調べた。

2 実験方法

2-1 Ni-P/BN処理

鉄素材(S35C)の試料に、Ni-P/BN処理を図1に示した処理工程で行った。試料を1分から30秒ごとに取り出して最長10分間のめっき処理を行い、処理時間を変化させためっき皮膜を形成した。

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図1 Ni-P/BN処理工程

 

2-2 SEMによる表面及び断面観察

めっき時間を1分から10分まで変化させて作成した試料表面と、120分めっきした試料を垂直にカットした断面をSEMで撮影し、Ni-P/BNの析出挙動を観察した。また、エネルギー分散型X線分光装置(EDX)を用いて皮膜の元素組成を計測した。これによりめっき膜成長過程におけるNi-P/BNを構成する元素含有率の変化を捉えた。分析にはエネルギー分散型X線分光装置(GenesisXM4)を使用した。

3 結果および考察

3-1 SEMおよびEDXによる表面観察測定結果

SEMを用いて試料表面同一箇所を倍率3000倍で観察した結果を図2に、電子線表面粗さ測定装置で測定した結果を図3に示す。Saとは算術平均粗さで、表面の平均面に対して、各点の高さの差の絶対値の平均を表す。Szとは最大高さで、表面の最も高い点から最も低い点までの距離を表す。SaおよびSzはISO25178に定められた表面性状のパラメータである。

 

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図2 試料表面同一箇所観察写真

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図3 電子線表面粗さ測定装置による鳥瞰図

 

試料表面同一箇所に対してEDXを用いて元素含有率を計測した結果を表1に示す。図4にB、N、Fe、Niの含有率変化のプロットを示す。図5に各めっき時間での試料を蛍光X線膜厚計により測定した膜厚を示す。

 

表1 処理時間による元素含有率の変化(単位:At%)

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図4 処理時間による元素含有率の変化

 

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図5 Ni-P/BNのめっき時間と膜厚の関係

表1および図4から、めっき時間に比例してNiの増加とFeの減少があり、3分を境にそれらの変動が緩やかになることが分かる。図2の表面形態でも同様に3分を境に表面の粗さが均されていくことが確認できる。このことから、めっき皮膜の形成は3分から3.5分の間、膜厚に換算すると1㎛前後からめっき皮膜の均一性が増してくることが分かる。

3-2 Ni-P/BN断面の測定と観察

Ni-P/BN表面上に見える斑点部分を対象としてEDXを用いて元素含有率をSPOT測定した結果を図6に示す。試料をカットし、吊るし方向に横側・下側・上側の断面をSEMを用いて観察したものを図7に示す。

 

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図6 Ni-P/BN表面上の斑点に対して元素組成をSPOT測定した結果

 

kunihiro8図7 試料断面観察写真(倍率:2500倍)

図6で測定箇所のBとNの組成値が極端に大きくなっていることから、表面上に見られる斑点部分が六方晶窒化ホウ素の粒子であることが分かる。また、図7からめっき皮膜断面に一定の割合で粒子が析出している。この粒子は六方晶窒化ホウ素の粒子と考えられる。図4でのBとNの組成値を見てみると、特にNでめっき時間にかかわらず一定の組成で推移していることから、六方晶窒化ホウ素の粒子はめっき開始直後から一定の割合で析出していくことが分かる。

4 おわりに

本実験で、Ni-P/BNは1㎛前後でめっき皮膜断面が均一になり始めること、六方晶窒化ホウ素の粒子はめっき皮膜の形成段階にかかわらず一定の割合で析出していくことが分かった。次のステップとしては、耐摩耗性・耐熱性・離型性などのデータを蓄積し、顧客への提案に活かしていきたい。

 

 

 

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