優れためっきの為の前処理 ②酸・アルカリ・界面活性剤

1 はじめに

めっきの前処理を考える上では、酸・アルカリ・界面活性剤に関する知識が不可欠です。従って、ここでそれらの基礎知識についてまとめてみました。

2 酸

酸は、酸化性の酸(硝酸、リン酸、過硫酸、クロム酸、濃硫酸)と還元性の酸(塩酸、酢酸、シュウ酸、亜硫酸、亜リン酸、フッ酸、希硫酸、有機酸)に分けられるが、めっき直前の活性化のためには還元性の酸を用いる方が良いです。特に、ステンレス鋼のように酸化し易い金属に酸化性の雰囲気は禁物です。

王水(aqua regia、通常は濃硝酸1+濃塩酸3)のように酸化性の酸と還元性の酸の混酸は非常に強い溶解力を持ちます。また、塩酸・硫酸あるいは硝酸・弗化水素酸の混酸は、ステンレス鋼のスケール除去や珪素鋼の脱珪素に用いられる場合があります。

これら酸の中で最も頻繁に用いられるのは塩酸あるいは硫酸であるが、両者の違いを表4-2に示します。塩酸を高濃度で使うと、ミストが多くなったり素地荒れを起こし易くなったりします。また、硫酸を高濃度で使うと、酸化剤となりスケール除去および活性化の能力が低下します。

表4-2 塩酸と硫酸の違い
  塩酸 硫酸
コスト 高い 安い
スケール除去速度 速い 遅い
ミストの発生 多い 少ない
使用濃度 塩酸として10%前後 *1 硫酸として10%前後 *2
使用温度 常温 常温~60℃
排水処理 難しい 塩酸より易しい
電解酸洗 通常用いない *3 一般にベースとなる
鉄塩の溶解度 大きい *4 小さい
鉄塩の影響 小さい 鉄塩の加で能力低下

*1:濃度が高いと発煙したり、素地荒れをおこしたりするため。*2:濃度が高いと酸化性の酸になりスケール除去力が弱まるため。*3:塩素ガスが発生するため。*4:約16%で溶解能力が最大となる。

フッ酸は、酸化皮膜やSi・Pb等に対する溶解力が強いわりに、たいていの純金属には優しく、酸スマットを発生しにくいため、活性化液や錆取り液等に使われることが多いが、平成11年2月22日より新たな環境基準項目に追加されたので、その使用に際しては注意が必要です。

酸洗時に、素地が酸により過剰にエッチングされるのを防ぎ、水素脆化を和らげるために、インヒビターを添加することも多いです。

電解酸洗とは、電気分解時に発生する水素や酸素による機械的洗浄作用を利用するものです。一般的には、10%前後の硫酸に添加剤を加えた浴で陰極電解脱脂を行う場合が多いです。陰極電解脱脂において発生する水素は、機械的洗浄作用に加えて素材表面の酸化物を還元除去できますが、水素脆化の危険も伴います。塩酸は電気分解すると塩素を発生するので、通常は電解脱脂に用いられません。

3 アルカリ

主に脱脂・洗浄に用いられるアルカリには、以下のものがあります。

NaOH

活性・洗浄性が大きく、乳化性も良く、安価なため、最も一般的に使用されます。しかし、強アルカリで、腐食性が強いため、Fe基素材等の耐アルカリ性の良好なもの以外では高濃度で用いられません。鉱物性油は除去できない。

Na4Si04

活性は中程度だが、洗浄性は大きく、分散性・乳化性も良いです。また、弱アルカリで、腐食性も弱いです。ただし高価な上に素材上に珪酸皮膜ができ易いという難点もあります。素材上に残った珪酸皮膜は外観不良の問題を起こし易いので注意が必要です。

Na2Si03

活性は中程度ですが、洗浄性が大きく、分散性・乳化性が良いです。また、弱アルカリで腐食性も小さいです。

Na3P04

洗浄性・分散性・乳化性が大きい上に、弱アルカリで腐食性も中程度であるため、使い易いです。ただし、最も高価です。

Na2C03

活性・洗浄性は中程度であるが、乳化性が良く、安価です。また、弱アルカリで、腐食性も弱いため、高価なNa3P04の代わりに用いられることが多いです。

NaHC03

弱アルカリで、腐食性が小さいので、非常にマイルドな洗浄ができます。

Na427

洗浄性が強く、硬水でも比較的効果があります。また、弱アルカリで、腐食性も弱いです。

NaCN

活性一洗浄性が大きく、金属イオンの錯化力が大きいので、金属酸化物の除去に適しています。弱アルカリで、高価です。加熱により分解します。

4 界面活性剤

界面活性剤とは親水基と疎水基(親油基)を持ち、水と油の2相界面に強く吸着し、界面張力を著しく低下させる物質で、以下の4種類があり、洗剤・起泡剤・消泡剤・分散剤・帯電防止剤・乳化剤・消毒剤などとして広く使われています。

アニオン界面活性剤

陰イオンに解離するタイプで、洗浄力が強くアルカリ脱脂の多くに使用されています。代表例に、高級アルコールの硫酸エステル(酸のHを炭化水素基Rで置き換えたもの、普通使われるのはラウリル硫酸Na=硫酸エステル塩)・芳香族のスルホン酸塩があります。泡立ちが良く消えにくいという欠点があります。

カチオン界面活性剤

腸イオンに解離するタイプで、酸処理のインヒビターに使用されています。代表例に、第4級アンモニウム基を持つ化合物が挙げられます。カチオン活性剤とアニオン活性剤が混ざると沈殿ができるので注意が必要です。

ノニオン界面活性剤

イオン解離しない非イオン性なので、酸・アルカリに安定で、アニオンと併用しても分解しません。代表例に、ポリオキシエチレンノニルフェニルェーテルがあげられます。電解洗浄等に使用されています。温度を上げると曇点(活性剤溶液が濁りだす温度、曇点前後で洗浄力・気泡力の性能変化が大きく、曇点以上では効果がありません)を生じ易いので、注意が必要です。

両性界面活性剤

長鎖アルキルアミノ酸のように同一分子中に陰イオン性解離基と陽イオン性解離基をもつものです。

めっきに関連する界面活性剤の用途としては、主に脱順や酸処理への使用が挙げられますが、湿潤剤、ピット防止剤、ミスト防止剤としてめっき液に添加されることもあります。ただし、過剰に加えても効果はなく、逆に次工程への持ち込みが問題となります。特に、 一部の界面活性剤は素材表面に吸着し易いので、適切な水洗が重要となります。

 

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